大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成6年(行ケ)201号 判決

アメリカ合衆国

カリフォルニア州92714 アーバイン スーツ200 メイン・ストリート2355

原告

ディスコビジョン アソシエイツ

代表者

デニス フィシェル

訴訟代理人弁理士

鈴江武彦

河野哲

勝村紘

中村俊郎

伊藤嘉昭

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

犬飼宏

今野朗

土屋良弘

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成3年審判第13629号事件について、平成6年4月15日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文第1、2項と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、1978年3月27日にアメリカ合衆国でした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和54年2月20日に出願した特願昭54-17936号を原出願とする分割出願として、昭和61年5月28日、名称を「情報貯蔵部材に電気信号を貯蔵する装置」とする発明(後に「ビデオ信号の記録装置」と補正、以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭61-121393号)が、平成3年4月16日に拒絶査定を受けたので、同年7月15日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を、平成3年審判第13629号事件として審理したうえ、平成6年4月15日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月16日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

被記録信号たるカラービデオ信号を周波数変調する周波数変調手段(20)と、

変調対象たる一定強度のレーザビームを発生するとともに、その強度が調整可能に成されたレーザ光源(30)と、

前記レーザ光源から発せられる一定強度のレーザビームを前記周波数変調カラービデオ信号で強度変調する光変調器(46)と、

前記光変調器で強度変調されたレーザビームを所定位置へ導くとともに、これを対物レンズ(52)で集束してビームスポットを形成する可動光学集成体(40)と、

前記光変調器の動作点を周囲温度に対して安定化させる温度補償回路(48)と、

前記可動光学集成体から得られるビームスポットが照射される感光面を有する記録ディスクを担持するとともに、一様な回転運動をするように支持されたターンテーブル(21)と、

前記ターンテーブルに対して回転駆動力を与えるモータ(134)と、

前記ターンテーブルの回転速度に対応する周波数を有する検出速度パルス列信号を出力する回転速度検出器(143)と、

目標回転速度を示す目標速度パルス列信号の位相と前記回転速度検出器から得られる検出速度パルス列信号の位相とが一致するように前記モータの速度を制御する回転駆動回路(32)と、

目標直線速度を示す目標速度パルス列信号に基いて内蔵モータを作動させることにより、前記可動光学集成体を前記ディスクの半径方向へと所望の速度で往復移動可能な並進駆動機構(34、143、144、146)と、

内蔵された色副搬送波水晶発振器(136)からの信号を分周することにより、前記回転駆動回路に対する目標速度パルス列信号と前記並進駆動機構に対する目標速度パルス列信号とを生成する同期集成体(36)とを備え、

かつ、前記光変調器の中間光透過状態が前記周波数変調カラービデオ信号の平均レベルに略対応し、かつ該中間光透過状態時に前記光変調器から出力されるレーザビームの平均エネルギーレベルが前記記録媒体感光面の閾値エネルギーレベルに略一致するように、前記レーザ光源の強度は初期設定されることを特徴とするビデオ信号の記録装置。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、特開昭50-2415号公報(以下「引用例1」といい、そこに記載された発明を「引用例発明1」という。)及び特開昭53-9101号公報(昭和53年1月27日公開。以下「引用例2」といい、そこに記載された発明を「引用例発明2」という。)に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることはできないとした。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例1の記載事項の認定(審決書2頁7行~9頁11行)は、引用例発明1において、「前記光変調器の中間光透過状態は、前記周波数変調ビデオ信号の平均レベルに略対応する」ものであるとした点(同7頁4~16行、9頁9~11行各記載の部分)を除き、認める。

引用例2の記載事項の認定(同9頁13行~10頁15行)は認める。

本願発明と引用例発明1との一致点の認定(同10頁17行~12頁17行)は、「前記光変調器の中間光透過状態が前記周波数変調ビデオ信号の平均レベルに略対応する」との点(同12頁14~15行)を除き、認める。各相違点の認定(同13頁1行~15頁5行)は認める。

相違点(1)~(6)の判断(同15頁9~17頁17行)は認めるが、相違点(7)の判断(同17頁18行~18頁9行)、本願発明の作用効果が格別のものでないとした判断(同18頁10~14行)は争う。

審決は、引用例発明1を誤認して、一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点(7)についての判断を誤り(取消事由2)、本願発明の作用効果を誤認した(取消事由3)結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(引用例発明1の誤認に基づく一致点の認定の誤り)

本願発明と引用例発明1との基本的な相違は、本願発明が、その要旨に示す「前記光変調器の中間光透過状態が前記周波数変調カラービデオ信号の平均レベルに略対応し、かつ該中間光透過状態時に前記光変調器から出力されるレーザビームの平均エネルギーレベルが前記記録媒体感光面の閾値エネルギーレベルに略一致するように、前記レーザ光源の強度は初期設定される」のに対し、引用例発明1が、この構成を有していない点にある。

この構成の後半部分は、審決が、相違点(7)として摘示した点であるが、その前半部分である「前記光変調器の中間光透過状態が前記周波数変調カラービデオ信号の平均レベルに略対応し」との点について、審決は、カラー方式の点を除き、引用例1に実質的に開示されており(審決書7頁13~15行)、引用例発明1がこれを備えるものとして(同9頁9~10行)、この点を本願発明との一致点として認定している(同12頁14~15行)が、誤りである。

(1)  本願発明における「中間光透過状態」とは、光変調器46から出力されたレーザ光の透過状態が上側のレベルと下側のレベルとの中間のレベルにある状態をいい、本願発明は、この「中間光透過状態」を「周波数変調ビデオ信号の平均レベル」に略対応させることを特徴とするものである。

すなわち、本願明細書(甲第2~第5、第7号証)の示すとおり、本願発明のポッケルス・セル68の偏光面の回転は、ポッケルス・セル駆動器72から出力された周波数変調電気信号と安定化回路48内の分圧器236の電位によって制御されるものであり、このように、ポッケルス・セル68の偏光面の回転の範囲は、周波数変調された電気信号の振幅と分圧器236の電位とにより定まることとなる(甲第3号証明細書26頁12行~27頁4行)。

一方、引用例発明1も、本願発明の上記構成部分とほぼ同様の機能を有するが、引用例1には、分圧器の電位及び周波数変調された電気信号の振幅を、本願発明の要旨に示す上記特定の関係を持たせるように制御する旨の記載はない。

すなわち、引用例発明1において、ポッケルス・セル安定化回路(44)内の分圧計(90)は、ポッケルス・セル(32)より伝えられる平均光レベルを任意のレベルに確定するにすぎないものであり、また、ポッケルス・セル安定化回路(44)は、単に平均光レベルの強さを一定に保つ働きを有するものにすぎないから、「中間光透過状態」が「周波数変調ビデオ信号の平均レベル」に対応する場合も起こりうるが、それは特別に条件を定めた場合のみであり、引用例1には、光変調器の中間光透過状態を周波数変調ビデオ信号の平均レベルに特定して対応させる旨の記載はない。

このように、引用例1には、その動作点を動作特性曲線の任意の点に設定できる光変調器が記載されているだけで、どこに設定するかは記載されておらず、引用例発明1の光変調器は、動作特性曲線の中間点又は動作特性曲線の実質的直線部分以外でも利用可能である。引用例発明1が、「光変調器の中間光透過状態が周波数変調ビデオ信号の平均レベルに略対応する」ようにのみ用いられ、それ以外の条件では用いられないことが客観的に明白な場合でなければ、被告が提示する特公昭43-27460号公報等(乙第1~第5号証)に、光変調器が動作特性曲線の中間点又は動作特性曲線の実質的直線部分を利用することが記載されているとしても、引用例1にそのことが記載されていることにはならない。

審決は、本願発明の「中間光透過状態」と引用例発明1の「平均光レベル」とが同一の概念であると誤認しているものである。

(2)  上記のとおり、本願発明では、光変調器の中間光透過状態が周波数変調ビデオ信号の平均レベルに略対応するが、引用例発明1では、光変調器からの平均光レベルを任意に設定しているにすぎない点で相違するのに、審決は、これを看過して、本願発明と引用例発明1とが、この点で一致すると誤って認定し、この誤認に基づき、本願発明の進歩性の判断を誤った。

2  取消事由2(相違点(7)についての判断の誤り)

審決は、相違点(7)につき、「レーザ光源(記録レーザ)の強度を調整可能とすると共に、光変調器から出力されるレーザビーム(光ビーム)の平均エネルギーレベルと記録媒体の閾値エネルギーレベル(感光レベル)とを等しくすることは、前記引用例2に開示されているとおり公知の事項であり、しかも、この公知の事項を引用例1に開示されたものに適用するのに格別の困難性は認められない」(審決書17頁20行~18頁7行)と認定判断しているが、誤りである。

(1)  たしかに、引用例2(甲第6号証)には、感光剤の感光レベルが丁度光信号波形の平均レベルにあると、記録跡のデューティサイクルは長期的に50%になる旨の記載(同号証2頁右上欄14~20行)はある。しかしながら、上記平均レベルは、単に光変調器からのレーザビームの平均エネルギーレベルにすぎず、これが、本願発明における光変調器の中間光透過状態時に該光変調器から出力されるレーザビームの平均エネルギーレベルに、必ずしも対応するものではない。

したがって、引用例2には、光変調器が中間光透過状態である場合に、該光変調器から出力されるレーザビームの平均エネルギーレベルが感光面の閾値エネルギーレベルに略対応する旨が開示されているものということはできず、引用例発明2の構成を引用例発明1に適用しても、本願発明の相違点(7)に係る構成にはならない。

(2)  仮に、引用例1及び2に審決認定のとおりの事項が開示されていたとしても、引用例発明1と引用例発明2とは、記録媒体上に歪み成分が含まれた記録が行われないようにするという課題の解決方法が顕著に異なり、それぞれ、単独にのみ成立する別個の技術であるから、いずれかの技術を採用すれば、他方の技術を採用することはできない。したがって、引用例発明1に引用例発明2を組み合せることは、当業者が容易に想到できることではない。

また、本願発明において、レーザ光源の強度は、光変調器の中間光透過状態が周波数変調カラービデオ信号の平均レベルに略対応し、かつ該中間光透過状態時に光変調器から出力されるレーザビームの平均エネルギーレベルが記録媒体感光面の閾値エネルギーレベルに略一致するように初期設定され、これにより、装置を安定に動作させることができるものであるのに対し、引用例1においては、レーザビームの強度を記録媒体の感度に応じて予め設定することについて、何らの開示も示唆もない。したがって、引用例発明1に引用例発明2を適用しても、本願発明の初期設定の構成に想到することは、当業者にとって容易であるとはいえない。

3  取消事由3(本願発明の作用効果の誤認)

審決は、「本願発明を全体的にみても、前記引用例1及び引用例2に開示された事項、並びに前記周知・慣用の事項から当業者が当然予測できる範囲を超える格別の作用・効果を見出すことができない。」(審決書18頁10~14行)と認定しているが、誤りである。

本願発明では、周波数変調ビデオ信号の平均レベルで定まる光変調器の動作点をその中間光透過状態に略対応させているため、光変調器をその入出力特性曲線上における直線性の良好な領域において動作させることになる(甲第3号証第15図)ので、十分なダイナミックレンジを確保して、歪みの少ない光変調を行うことができ、また、光変調器の中間光透過状態時に該光変調器から出力されるレーザビームの平均エネルギーレベルは感光面の閾値エネルギーレベルに略一致するので、忠実度の高い情報記録が行われるため、上記のような構成を有しない引用例発明1、2に比べて著しく書込み動作が安定するという格別の作用効果を奏する。

したがって、審決の上記認定は誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

引用例1(甲第5号証)によれば、ポッケルス・セル安定化回路(44)は、分圧計(90)により設定された値に基づいて書込ビーム(40)の平均光レベルを調整できるものと解される(同号証6頁左下欄9~20行、同頁右下欄8~18行)。そして、ポッケルス・セル駆動装置(34)、ポッケルス・セル(32)及び偏光子(38)から構成される光変調器において、前記分圧計により、中間光透過状態での出力レベルを調整するということは、光変調器の動作点を調整していることに他ならないから、光変調器の中間光透過状態での出力レベルを前記分圧計による動作点の設定により調整することになる。

一方、特公昭43-27460号公報(乙第1号証)、特開昭49-106344号公報(乙第2号証)、特開昭47-41858号公報(乙第3号証)、特公昭46-11773号公報(乙第4号証)、特許第102893号明細書(乙第5号証)にみられるとおり、光変調器において、その動作点を動作特性曲線の中間点に設定すること及びその動作特性曲線の実質的直線部分を利用することはいずれも、本願出願前から普通に採用されている技術常識であるから、引用例1には、光変調器の動作点を動作特性曲線の中間点を含む適宜の点に分圧計によって設定すること及びその動作特性曲線の実質的直線部分を利用することが実質的に開示されているということができる。

そして、光変調器において、その動作点を動作特性曲線の中間点に設定すれば、当然、光変調器の中間光透過状態が周波数変調ビデオ信号の平均レベルに完全に対応することにちり、また、動作点をそのように設定しない場合でも、動作特性曲線の実質的直線部分を利用すれば、光変調器の中間光透過状態が周波数変調ビデオ信号の平均レベルに略対応することになるから、引用例1には、光変調器の中間光透過状態が周波数変調ビデオ信号の平均レベルに略対応することが実質的に開示されている。

したがって、審決の引用例1の記載事項の認定、本願発明と引用例発明1との一致点の認定に誤りはなく、相違点の看過もない。

2  取消事由2について

(1)  引用例2(甲第6号証)には、その第1図に示す記録媒体の感光レベル(4)、(5)、(6)のうち感光レベル(4)は、光信号波形(2)の平均レベルにあること(同号証2頁右上欄1~8行)、前記記録媒体の感光レベル(4)が光信号波形(2)の中心線上すなわち平均レベルにあれば、記録跡(7)のデューティサイクルが長期的には50%になること(同2頁右上欄14~20行)、光信号波形を記録媒体に記録するとき、記録跡のデューティサイクルが50%になるように記録光ビームの強さを制御すること(同4頁左上欄11行~右上欄19行)が実質的に記載されている。

また、前記光信号波形(2)の平均レベルは、光変調器(17)から出力される光信号の平均レベルであって、当然前記光変調器(17)の動作範囲の中間状態時に出力されるレベルと同じであるから、前記光信号波形(2)の平均レベルが、光変調器(17)の中間光透過状態時に出力されるレベルであることは明らかである。

したがって、引用例2には、審決認定のとおり、「レーザ光源(記録レーザ)の強度を調整可能とすると共に、光変調器から出力されるレーザビーム(光ビーム)の平均エネルギーレベルと記録媒体の閾値エネルギーレベル(感光レベル)とを等しくすること」(審決書17頁20行~18頁4行)が記載されている。

(2)  引用例発明1は、周波数変調されたレーザビーム(書込ビーム)を照射することにより、そのレーザビームの強度に応じて記録ディスク上の金属薄膜の被覆層に孔を形成して情報を記録する記録装置であり、引用例1(甲第5号証)には、引用例発明1において、レーザビームの強度を記録媒体(金属薄膜の被覆層)の感度に応じて予め設定することが開示されている(同号証3頁右下欄6~12行、7頁左上欄3~5行、16~19行)。

そして、引用例発明2は、周波数変調されたレーザビーム(光ビーム)を照射することにより、そのレーザビームの強度に応じて記録ディスク上の感光剤を感光せしめて情報を記録する記録装置であり、前示のとおり、「レーザ光源の強度を調整して、光変調器から出力されるレーザビーム(光ビーム)の平均エネルギーレベルと記録媒体の閾値エネルギーレベル(感光レベル)とを等しくする」構成を備えている。

したがって、引用例発明1、2はいずれも、周波数変調されたレーザビームを記録ディスク上に照射することにより情報を記録する記録装置であって、同じ技術分野に属するものであり、引用例発明1のレーザビームの強度を記録媒体の感度に応じて予め設定するための具体的手段として、引用例発明2の上記構成を適用し、レーザ光源の強度を、本願発明のように初期設定することは、当業者が容易に想到できることである。

3  取消事由3について

本願発明の「光変調器の中間光透過状態が周波数変調ビデオ信号の平均レベルに略対応する」構成は、引用例発明1が備えており、また、「光変調器から出力されるレーザビームの平均エネルギーレベルが記録媒体の閾値エネルギーレベルに略一致する」構成は、引用例発明2が備えている。

そうすると、引用例発明1、2のそれぞれが本願発明の上記構成の一方を備えているから、その構成に対応する効果が生ずることが明らかであり、本願発明の奏する作用効果は、引用例発明1、2の各発明から当業者が当然予測できる範囲を越えるものではない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(引用例発明1の誤認に基づく一致点の認定の誤り)について

(1)  引用例発明1における光変調器が、ポッケルス・セル駆動装置(34)、ポッケルス・セル(32)及び偏光子(38)から構成されること、光変調器からの出力ビームである書込ビーム(40)の平均光レベルが、ポッケルス・セル安定化回路(44)の中の分圧計(90)により設定された値に基づいて、任意のレベルに調整できること、「中間光透過状態」とは、光変調器から出力されたレーザ光の透過状態が上側のレベルと下側のレベルとの中間のレベルにある状態をいうことは、当事者間に争いがない。

ところで、光変調器において、書込ビームの平均光レベルを分圧計(分圧器)により任意のレベルに調整することは、換言すれば、光変調器の動作点を動作特性曲線の任意の適当な位置に設定することであるところ、特公昭43-27460号公報(乙第1号証)、特開昭49-106344号公報(乙第2号証)、特開昭47-41858号公報(乙第3号証)及び特公昭46-11773号公報(乙第4号証)によれば、入力電圧に対して忠実かつ良好な変調を行うためには、光変調器の動作点を動作特性曲線の上側のレベルと下側のレベルとの中間点に設定することが開示されており、また、これら各公報と昭和8年公告第1479号に係る特許第102893号明細書(乙第5号証)によれば、同様の目的のために、その動作特性曲線の実質的直線部分を利用することが開示されているから、光変調器の動作点を動作特性曲線の中間点に設定すること及びその動作特性曲線の実質的直線部分を利用することは、いずれも本願の優先権主張日前から普通に採用されている技術常識であったと認められる。

したがって、引用例発明1の光変調器においても、それが書込ビームの平均光レベルを任意のレベルに調整できるものである以上、出力に歪みが生ずるのを避けて忠実かっ良好な変調を行うために、光変調器の動作点を動作特性曲線の中間点に設定すること及びその動作特性曲線の実質的直線部分を利用することは、あえて中間点を避けたり曲線部分を利用することにより動作範囲を偏らせたり歪みのある変調を行う格別の必要がある場合は別として、当業者において当然に採用できることと認められる。そして、引用例発明1において、上記のような格別の必要があることは、本件証拠上、これを認めることはできない。

そうすると、引用例発明1においても、光変調器の動作点を動作特性曲線の中間点に設定し、その動作特性曲線の実質的直線部分を利用することにより、その書込ビームの波形は歪みのない上下対称のものとなり、書込ビームの平均レベルは、上側のレベルと下側のレベルとの中間のレベルに一致することとなるから、この場合には、中間光透過状態にあるということができる。

次に、引用例1(甲第5号証)には、「FM変調器(36)は記録されるべきビデオ信号を受けて、ポツケルス・セル駆動装置(34)へ適当な制御信号を与える。周知のように、ポツケルス・セル(32)は光ビームの偏光面を回転することによって印加された信号電圧に応答する。直線偏光子は、光を所定の偏光面においてのみ透過するから、実施例におけるグラン・プリズム(38)のような偏光子が書込ビーム通路中に入れられて変調された書込ビーム(40)を与える。」(同号証4頁左下欄9~17行)との記載があり、このことと、当業者においては、前記のとおり、当然のこととして出力に歪みが生ずるのを避けて忠実かつ良好な変調を行うために、動作点を動作特性曲線の中間点に設定すること及びその動作特性曲線の実質的直線部分を利用することを併せて考慮すると、引用例発明1においても、入力されたビデオ信号がFM変調器で周波数変調された後、光変調器でその周波数変調されたビデオ信号に応じて、光ビームの強度が歪みなく変化(強度変調)させられて書込ビームを出力しているのが通常であると、当業者には理解できるものと認められる。そして、この場合には、周波数変調されたビデオ信号と書込ビームは対応しており、当然、前者の平均は後者の平均と一致することになる。

(2)  以上の事実によれば、引用例1に接した当業者は、出力に歪みが生ずるのを避けて忠実かつ良好な変調を行うために、動作点を動作特性曲線の中間点に設定し、その動作特性曲線の実質的直線部分を利用すれば、書込ビームの平均レベルは光変調器の中間光透過状態にあり、他方、周波数変調されたビデオ信号の平均と書込ビームの平均は一致するわけであるから、結局、周波数変調されたビデオ信号の平均は、光変調器の中間光透過状態に対応することになることを、当然に理解できるものと認められ、そうすれば、引用例1には、このことが実質的に開示されているということができる。

したがって、審決が、引用例発明1につき、「前記光変調器の中間光透過状態は、前記周波数変調ビデオ信号の平均レベルに略対応することになる」(審決書7頁13~15行)と認定し、引用例1には、「前記光変調器の中間光透過状態が前記周波数変調ビデオ信号の平均レベルに略対応するビデオ信号の書込装置」(同9頁9~11行)が開示されているとしたことに誤りはなく、これを前提に、本願発明と引用例発明1とが、「前記光変調器の中間光透過状態が前記周波数変調ビデオ信号の平均レベルに略対応するビデオ信号の記録装置」である点で一致するとしたことは正当であり、そこに原告主張の誤りはない。

2  取消事由2(相違点(7)についての判断の誤り)について

(1)  引用例2(甲第6号証)には、「第1図の(4)、(5)、(6)はそれぞれある定まつた感光剤の感光レベルであり、感光レベル(4)は光信号波形(2)の平均レベルにあり、感光レベル(5)はこの上限近くにあり、感光レベル(6)はこの下限近くにあるものとする。記録過程において感光剤の感光レベルが変化すると同一の光信号波形に対しても異つた記録跡を生ずる。すなわち第1図に示すように感光レベル(4)を有する感光剤をもつ媒体には光信号波形(2)に対し記録跡(7)を生じ感光レベル(5)、(6)を有する感光剤をもつ媒体にはそれぞれ記録跡(8)、(9)を生ずる。」(同号証2頁右上欄1~12行)、「感光レベル(4)をもつ感光剤を有する媒体に記録を行なつたときは感光レベル(4)が丁度光信号波形(2)の中心線上にあるため記録跡(7)のデユーテイサイクルは長期的には50%であるのでこれより再生される再生信号(10)もデユテイサイクルは同じく50%で第2次高調波を含まない。」(同2頁右上欄14~20行)、「要約すると第2図のような構成により感光剤の感光レベルの変化、光学系の透過率の変化、記録レーザーの出力変動、焦点ずれ等が生じてもこれら補正するように記録光ビームの強さが変化するので第5図の記録信号(46)に示すようなデユーテイサイクルが50%となるような記録跡が得られ」(同4頁右上欄13行~19行)との記載があり、これらの記載及び図面第1~5図によれば、引用例発明2には、記録媒体の感光レベルが光信号波形の中心線上すなわち平均レベルにあれば、記録跡のデューティサイクルが50%になることと、光信号波形を記録媒体に記録するとき、記録跡のデューティサイクルが50%になるように記録光ビームの強さを制御することが、それぞれ開示されているものと認められる。

そうすると、引用例2には、「ビデオ信号(記録信号)の記録装置において、レーザ光源(記録レーザ)の強度を調整可能とすると共に、光変調器から出力されるレーザビーム(光ビーム)の平均エネルギーレベルと記録媒体の閾値エネルギーレベル(感光レベル)とを等しくすること」(審決書17頁19行~18頁4行)が記載されているものと認められ、審決の認定に誤りはない。

そして、上記のとおり、本願発明と引用例発明1とは、「前記光変調器の中間光透過状態が前記周波数変調ビデオ信号の平均レベルに略対応する」点で一致するのであるから、これを前提とすれば、引用例2に開示された上記公知の事項を引用例発明1に適用し、本願発明の構成とすることに、格別の困難性はないことが明らかである。

(2)  原告は、仮に、引用例1及び2に審決認定のとおりの事項が開示されていたとしても、引用例発明1と引用例発明2とは、記録媒体上に歪み成分が含まれた記録が行われないようにするという課題の解決方法が異なるから、引用例発明1に引用例発明2を組み合せることは当業者が容易に想到することではない旨主張する。

しかしながら、引用例発明1と引用例発明2とは共に、前記のとおり、周波数変調されたレーザビームを照射することにより、そのレーザビームの強度に応じて記録ディスク上に情報を記録する記録装置である点で一致するのであり、引用例1(甲第5号証)には、「金属化被覆はレーザ・ビームが適当な変調の下で、その表面の局部領域を溶かすのに十分なエネルギを放つことができるようなものである。」(同号証7頁左上欄3~5行)、「再生情報は、特に、書込ビームの強さを制御して適切な『記録レベル』を保証し、受容し難い数の誤差が記録過程で生じているかどうかを決定する。」(同頁同欄16~19行)と記載されており、これによれば、引用例発明1の情報記録装置において、レーザビームの強度を記録媒体(金属薄膜の被覆層)の感度に応じて予め設定することが示唆されているものと認められる。

そうすると、引用例発明1と引用例発明2において、記録媒体上の歪み成分を最小とするための制御方法に具体的差異があるとしても、上記各発明はいずれも同じ技術分野に属するものであることが明らかであり、引用例発明1においてレーザビームの強度を記録媒体の感度に応じて予め設定することが示唆されている以上、そのための具体的手段として、引用例発明2に開示されている「レーザ光源の強度を調整して、光変調器から出力されるレーザビームの平均エネルギーレベルと記録媒体感光面の閾値エネルギーレベルとを等しくする」という技術を、引用例発明1に適用することは、当業者が容易に想到することができるものということができる。

したがって、原告の取消事由2の主張は理由がない。

3  取消事由3(本願発明の作用効果の誤認)について

周波数変調ビデオ信号の平均レベルで定まる光変調器の動作点をその中間光透過状態に略対応させれば、十分なダイナミックレンジを確保して歪みの少ない光変調を行うことができ、また、光変調器の中間光透過状態時に該変調器から出力されるレーザビームの平均エネルギーレベルを感光面の閾値エネルギーレベルに略一致させれば、忠実度の高い情報記録が行われるため、著しく書込み動作が安定することは、いずれも、これらの構成を採用することにより、当然に予測できる効果であることは、以上の説示から明らかである。

したがって、本願発明の奏する作用効果は、引用例発明1及び引用例発明2から当業者が当然予測できる範囲を越えるものではないというべきであり、審決に本願発明の作用効果の誤認はない。

4  以上のとおりであるから、取消事由はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

平成3年審判第13629号

審決

アメリカ合衆国、カリフォルニア州 92627、コスタ・メサ、スウィート 211、フェアービュー・ロード 2183

請求人 ディスコビジョン アソシエイツ

東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内

代理人弁理士 鈴江武彦

東京都千代田区霞が関3丁目7番2号鈴榮内外國特許事務所内

代理人弁理士 村松貞男

東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内

代理人弁理士 花輪義男

昭和61年 特許願第121393号「ビデオ信号の記録装置」拒絶査定に対する審判事件(昭和62年 1月 9日出願公開、特開昭62- 3440)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

(手続の経緯・本願発明の要旨)

本願は、昭和54年2月20日(優先権主張1978年3月27日、アメリカ合衆国)に出願した特願昭54-17936号の一部を昭和61年5月28日に分割して新たな特許出願としたものであって、その発明の要旨は、原審及び当審において補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものと認める。

「被記録信号たるカラービデオ信号を周波数変調する周波数変調手段(20)と、

変調対象たる一定強度のレーザビームを発生するとともに、その強度が調整可能に成されたレーザ光源(30)と、

前記レーザ光源から発せられる一定強度のレーザビームを前記周波数変調カラービデオ信号で強度変調する光変調器(46)と、

前記光変調器で強度変調されたレーザビームを所定位置へ導くとともに、これを対物レンズ(52)で集束してビームスポットを形成する可動光学集成体(40)と、

前記光変調器の動作点を周囲温度に対して安定化させる温度補償回路(48)と、

前記可動光学集成体から得られるビームスポットが照射される感光面を有する記録ディスクを担持するとともに、一様な回転運動をするように支持されたターンテーブル(21)と、

前記ターンテーブルに対して回転駆動力を与えるモータ(134)と、

前記ターンテーブルの回転速度に対応する周波数を有する検出速度パルス列信号を出力する回転速度検出器(143)と、

目標回転速度を示す目標速度パルス列信号の位相と前記回転速度検出器から得られる検出速度パルス列信号の位相とが一致するように前記モータの速度を制御する回転駆動回路(32)と、

目標直線速度を示す目標速度パルス列信号に基いて内蔵モータを作動させることにより、前記可動光学集成体を前記ディスクの半径方向へと所望の速度で往復移動可能な並進駆動機構(34、143、144、146)と、

内蔵された色副搬送波水晶発振器(136)からの信号を分周することにより、前記回転駆動回路に対する目標速度パルス列信号と前記並進駆動機構に対する目標速度パルス列信号とを生成する同期集成体(36)とを備え、

かつ、前記光変調器の中間光透過状態が前記周波数変調カラービデオ信号の平均レベルに略対応し、かつ該中間光透過状態時に前記光変調器から出力されるレーザビームの平均エネルギーレベルが前記記録媒体感光面の閾値エネルギーレベルに略一致するように、前記レーザ光源の強度は初期設定されることを特徴とするビデオ信号の記録装置。」

(なお、「可動光学集成体」の符号「(142)」は、「(40)」の誤記と認められる。)

(引用例)

これに対して、当審において拒絶の理由に引用した、特開昭50-2415号公報(以下「引用例1」という。)、及び特開昭53-9101号公報〔(昭和53年1月27日公開)以下「引用例2」という。〕には、それぞれ次の事項が開示されている。

(1)引用例1

引用例1には、書込ヘッド(12)によりビデオ信号をディスク(18)上に記録する書込装置と、前記ディスク上に記録したビデオ信号を記録直後に読出す再生装置とを備え、書込動作をモニターすることができるビデオ情報をつくるための装置が開示されている。

前記ビデオ情報をつくるための装置において、特に、書込装置に注目すれば、偏光分割レーザ(30)は、周波数変調されたビデオ信号をディスク(18)上に記録する書込装置の光源であるから、一定強度のレーザビームを発生することが明らかであり、また、この一定強度のレーザビームは、ポッケルス・セル駆動装置(34)、ポッケルス・セル(32)及び偏光子(38)によって、強度変調されて書込ビーム(40)となるから(第4頁下左欄5行~17行参照)、前記ポッケルス・セル駆動装置、ポッケルス・セル及び偏光子は、光変調器を構成することが明らかである。

そして、前記書込ビーム(40)は、レンズ(46)及び関節鏡(50)により所定位置へ導かれると共に、対物レンズ(14)で集束されビームスポットに形成される。前記レンズ(46)、関節鏡(50)及び対物レンズ(14)からなる光学系は、並進往復台(28)上に配置され、前記ディスク(18)の半径方向に移動可能であるから、前記光学系は、可動光学集成体を構成していることが明らかである(特に、第4頁上右欄16行~同頁下左欄4行、及び同頁下右欄6行~16行参照)。

さらに、回転駆動装置(22)は、前記ディスク(18)をスピンドル(22)を介して目標の回転速度で回転駆動するものであり、並進駆動装置(26)は、前記並進往復台(28)を目標の直線速度で移動するものであり、また、水晶発振器(20)は、前記回転駆動装置及び並進駆動装置に対して速度制御用のパルス列信号を出力して、前記回転速度と前記移動速度とを制御するものである(特に、第4頁上右欄14行~同頁下左欄4行、及び第5頁下右欄16行~第6頁上左欄2行参照)。

そして更に、ポッケルス・セル安定化回路(44)は、差動増幅器(86)に前記書込ビーム(40)の平均光レベルを適宜設定することができ、その設定レベルを維持するように補正電圧をポッケルス・セル(32)に印加するものであるから、前記光変調器の中間光透過状態は、前記書込ビーム(40)の平均レベルに対応することになる。また、前記書込ビーム(40)は、周波数変調ビデオ信号により前記光変調器で強度変調されるものであるから、結局、前記光変調器の中間光透過状態は、前記周波数変調ビデオ信号の平均レベルに略対応することになる(特に、第6頁下左欄3行~同頁下右欄18行、及び第4頁下左欄9行~17行参照)。

してみれば、前記引用例1には、次の事項が開示されていることになる。

「被記録信号たるビデオ信号を周波数変調するFM変調器(36)と、

変調対象たる一定強度のレーザビームを発生する偏光分割レーザ(30)と、

前記偏光分割レーザから発せられる一定強度のレーザビームを前記周波数変調ビデオ信号で強度変調する光変調器(34、32、38)と、

前記光変調器で強度変調されたレーザビームを所定位置へ導くとともに、これを対物レンズ(14)で集束してビームスポットを形成する可動光学集成体と、

前記光変調器の動作点を安定化させるポッケルス・セル安定化回路(44)と、

前記可動光学集成体から得られるビームスポットが照射される感光面を有するディスク(18)を担持するとともに、一様な回転運動をするスピンドル(24)と、

前記スピンドルに対して回転駆動力を与えるモータと、

目標回転速度を示す目標速度パルス列信号に基いて前記モータの速度を制御する回転駆動装置(22)と、

目標直線速度を示す目標速度パルス列信号に基いて内蔵モータを作動させることにより、前記可動光学集成体を前記ディスクの半径方向へと所望の速度で往復移動可能な並進駆動装置(26)と、

前記回転駆動装置に対する目標速度パルス列信号と、前記並進駆動装置に対する目標速度パルス列信号の基準となる信号を出力する水晶発振器(20)とを備え、

前記光変調器の中間光透過状態が前記周波数変調ビデオ信号の平均レベルに略対応するビデオ信号の書込装置。」

(2)引用例2

引用例2には、記録信号で変調されたエネルギビームを用いて記録媒体へ前記記録信号を記録する記録装置であって、エネルギビーム源の不安定性、前記記録媒体の感度むら等の影響を受けず、ひずみの少ない記録をすることができる記録装置が開示されている。この説明において、光ビームの強度と記録媒体の感光レベルと記録跡との相互関係に注目すれば、次の事項が開示されている。

「記録媒体(21)上に記録された記録跡(37)を記録直後に読取り、この読取った再生信号に基づいて該再生信号のデューティサイクル、さらには前記記録跡のデューティサイクルを算出し、この算出した値(信号)で記録レーザー(13)からの光ビーム(14)の強度を調整することによって、前記記録媒体の感光レベルの大小、光学系の光透過率の変化、又は前記記録レーザーの出力変動があっても、前記記録跡のデューティサイクルを所定の値に保持すること。」及び、

「光変調器(17)から出る光ビーム(19)の光信号波形(41)の平均光レベルと、前記記録媒体(21)の感光レベル(43)とを等しくすると、デューティサイクルが50%の記録跡(46)が得られること。」

(特に、第4~5図、及びその説明を参照)

(本願発明と引用例開示事項との対比)

そこで、本願発明と引用例1に開示されたものとを比較すると、引用例1のものにおける「FM変調器」、「偏光分割レーザ」、「ディスク」、「回転駆動装置」、「並進駆動装置」、及び「書込装置」は、それぞれ本願発明における「周波数変調手段」、「レーザ光源」、「記録ディスク」、「回転駆動回路」、「並進駆動機構」、及び「記録装置」に相当すると認められるから、両者は、

「被記録信号たるビデオ信号を周波数変調する周波数変調手段と、

変調対象たる一定強度のレーザビームを発生するレーザ光源と、

前記レーザ光源から発せられる一定強度のレーザビームを前記周波数変調ビデオ信号で強度変調する光変調器と、

前記光変調器で強度変調されたレーザビームを所定位置へ導くとともに、これを対物レンズで集束してビームスポットを形成する可動光学集成体と、

前記光変調器の動作点を安定化させる安定化回路と、

前記可動光学集成体から得られるビームスポットが照射される感光面を有する記録ディスクを担持するとともに、一様な回転運動をする記録デイスク回転部材と、

前記記録ディスク回転部材に対して回転駆動力を与えるモータと、

目標回転速度を示す目標速度パルス列信号に基いて前記モータの速度を制御する回転駆動回路と、

目標直線速度を示す目標速度パルス列信号に基いて内蔵モータを作動させることにより、前記可動光学集成体を前記ディスクの半径方向へと所望の速度で往復移動可能な並進駆動機構と、

前記回転駆動回路に対する目標速度パルス列信号と、前記並進駆動機構に対する目標速度パルス列信号の基準となる信号を出力する水晶発振器とを備え、

前記光変調器の中間光透過状態が前記周波数変調ビデオ信号の平均レベルに略対応するビデオ信号の記録装置。」

である点において実質的に一致しており、本願発明は、次の各点において引用例1に開示されたものと相違している。

相違点

(1)被記録信号であるビデオ信号が、本願発明においては、カラー方式であるのに対して、引用例1に開示されたものでは、カラー方式かどうか明らかでない点。

(2)光変調器の動作点を安定化させる安定化回路が、本願発明においては、周囲温度に対して作動点を安定化させる温度補償回路であるのに対して、引用例1に開示されたものでは、ポッケルス・セル安定化回路であって、温度補償機能については明らかにされていない点。

(3)記録ディスク回転部材が、本願発明においてはターンテーブルであるのに対して、引用例1に開示されたものではスピンドルである点。

(4)本願発明は、ターンテーブルの回転速度に対応する周波数を有する検出速度パルス列信号を出力する回転速度検出器を備えているのに対して、引用例1に開示されたものでは、この回転速度検出器を備えているかどうか明らかでない点。

(5)回転駆動力を与えるモータの回転速度が、本願発明においては、目標回転速度を示す目標速度パルス列信号の位相と前記回転速度検出器から得られる検出速度パルス列信号の位相とが一致するように制御されるのに対して、引用例1に開示されたものでは、どのように制御されるのか明らかでない点。

(6)回転駆動回路に対する目標速度パルス列信号と、並進駆動機構に対する目標速度パルス列信号が、本願発明においては、色副搬送波水晶発振器からの信号を分周することにより生成されるのに対して、引用例1に開示されたものでは、水晶発振器からの信号に基づくものであるが、それらがどのように生成されるのか明らかでない点。

(7)本願発明においては、レーザ光源の強度が調整可能であり、且つ、光変調器の中間光透過状態時に該光変調器から出力されるレーザビームの平均エネルギーレベルが、記録媒体感光面の閾値エネルギーレベルに略一致するように、前記レーザ光源の強度が初期設定されるのに対して、引用例1に開示されたものでは、レーザ光源の強度調整ができるかどうか明らかでなく、また、記録媒体感光面の閾値エネルギーレベルとレーザ光源の強度との関係を明らかにしていない点。

(当審の判断)

次いで、前記相違点(1)~(7)について更に検討する。

相違点(1)について

ビデオ信号をカラー方式とすることは、従来から周知の事項であって(例えば、特開昭50-24022号公報参照)、本願発明においてカラー方式に特定した点に格別の意義は認められないから、前記相違点(1)は格別のものではない。

相違点(2)について

前記引用例1に開示されたものにおけるポッケルス・セル安定化回路(44)は、その第4図に示されているとおりの構成を備えており、この構成は、本願発明における温度補償回路の具体的な構成(本願の明細書第26~30頁及び第10図において説明された「ポッケルス・セル安定化回路(48)」参照)と同じである。

してみれば、引用例1のものにおけるポッケルス・セル安定化回路にも、光変調器の動作点を周囲温度に対して安定化させる温度補償機能があることは明らかであり、前記相違点(2)に実質的な差異は認められない。

相違点(3)について

ビデオ信号等の記録装置における記録ディスク回転部材として、ターンテーブルを用いることは、例示するまでもなく慣用の事項であるから、前記相違点(3)は格別のものとは認められない。

相違点(4)~(5)について

モータにより回転される部材の回転速度を目標回転速度に制御する場合に、該回転部材の回転速度に対応する周波数の検出速度パルス列信号を出力する回転速度検出器を設けると共に、前記モータの回転速度を制御する回転駆動回路を、目標回転速度を示す目標速度パルス列信号の位相と、前記回転速度検出器から得られる検出速度パルス列信号の位相とが一致するように制御する構成とすることは、従来から周知の事項である(例えば、特開昭51-1025号公報参照)から、前記相違点(4)~(5)は格別のものとは認められない。

相違点(6)について

ビデオディスク装置の回転速度制御のように、カラービデオ信号に関連付けて動かされる可動部分の速度を制御する場合に、色副搬送波水晶発振器からの信号を分周して、目標速度パルス列信号(m/n分周された信号fs’)を生成することは、従来から周知の事項であり(例えば、特開昭50-24022号公報参照)、この周知の事項を前記引用例1に開示されたものにおける目標速度パルス列信号の生成手段として採用することに格別の困難性は認められないから、前記相違点(6)は、前記周知の事項に基づいて容易に想到できたことである。

相違点(7)について

ビデオ信号(記録信号)の記録装置において、レーザ光源(記録レーザ)の強度を調整可能とすると共に、光変調器から出力されるレーザビーム(光ビーム)の平均エネルギーレベルと記録媒体の閾値エネルギーレベル(感光レベル)とを等しくすることは、前記引用例2に開示されているとおり公知の事項であり、しかも、この公知の事項を引用例1に開示されたものに適用するのに格別の困難性は認められないから、この相違点(7)は、前記公知の事項に基づいて当業者が容易に想到することができたことである。

そして、本願発明を全体的にみても、前記引用例1及び引用例2に開示された事項、並びに前記周知・慣用の事項から当業者が当然予測できる範囲を超える格別の作用・効果を見出すことができない。

(むすび)

以上のとおりであって、本願発明は、引用例1及び引用例2に記載されたそれぞれの発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成6年4月15日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

請求人被請求人のため出訴期間として90日を附加する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例